フランス衛生パス事情〜2021秋


2021年8月9日から「衛生パス」提示義務の範囲が広がり、フランスは大きく変わりました。ワクチン接種率の上昇とともに、接種者と未接種者の間の溝が深まっているように見受けられます。

🔳医療関係者のワクチン接種義務と制裁

2021年7月25日、医療、介護従事者、消防・救急隊員のワクチン接種の義務化が正式に決まりました。

1回目接種の期限は9月14日。

1回目を終えた者は、2回目接種期限の10月15日までの間、検査の陰性証明を提出すれば、業務に就くことができました。

10月15日までに2回の接種を終えていない場合は、16日から職務に就くことを禁じられ、雇用契約は中断。給与の支払いも停止されました。

🔳政府、接種義務拒否者への生活保護支給を要請、15県が猛反対

フランス政府は地方自治体に対し、ワクチン義務の拒否により収入を失った医療従事者などに、生活保護費(RAS)の振込を要請。

フランス全土96県のうちの15県(全て社会党)は猛反発。支給を断固拒否し、10月29日カステックス首相に、署名付きの抗議文を送りました。

□15県の抗議文書の内容

●ワクチン拒否を理由に職務を怠った者に対し、報酬を与えることは法に反する

●RAS(生活保護)は、社会と職業への復帰を助けることを目的とした制度である。
ワクチン接種義務の拒否により、雇用契約を中断された者に補助金を出して救済する制度ではない。したがってRASを、国の補助金の代用として支給することは出来ない。

◼︎接種拒否による雇用中断者は15,000人

ヴェラン保健相によると、ワクチン義務を拒否により収入を絶たれた数は、フランス全土で約15,000人。

義務拒否者の雇用中断は、政府が”衛生状況が通常に戻った”と判断するまで続く(少なくとも2022年2月末日まで)。

雇用中断のため、拒否者に失業保険を受ける資格はなく、生活保護(RAS)に頼るしかないのが現状。

感染拡大が始まった2020年3月、フランス全土が封鎖になり、ほとんどの国民が仕事や学校へ行くことを禁止されました。

2ヶ月間、食料品や最低限の生活必需品を売る店以外はすべて閉鎖されました。

その頃、人手不足の中で激務をこなし、感染の危険を冒して医療を支え、勇敢に働いたのは、医療従事者や救急隊員でした。

封鎖中には英雄扱いされた彼らの一部が、ワクチンを打たない選択をしたことで、世間やメディアから非難を受けている。ワクチンがなかった頃には助け合い、団結し、共に困難を乗り越えてきた。そんな人々の間に、接種、未接種、考え方の違いで分断が生まれています。

「今後、感染者が増えた場合、以前のような都市封鎖はしない」とマクロン大統領は7月のテレビ演説で断言。「外出禁止、移動の制限の対象のなるのは、ワクチン未接種者のみである」。

これから冬を迎えるフランス。フランスの冬は長くて暗く、とてつもなく厳しい。接種者と未接種者の生活格差が広がり、社会との繋がりや文化的な活動に参加できなくなってしまうのはあまりにも悲しい・・・。

◼︎一般公開施設の従業員、「衛生パス」義務化

フランス労働省の」サイトより

2021年8月9日から、ショッピングセンター、文化、娯楽施設など入場する際、「衛生パス」の提示が義務となりました。

8月31日からは、衛生パス提示義務の商店や施設で働く従業員に対しても、衛生パスの提示が義務化されました。

□ 衛生パスとは

●ワクチン接種の証明書
 (紙とデジタル版があり、両方ともQRコード付き)
●薬局や検査機関で受けたPCR検査や抗原検査の陰性証明書
(48時間以内に受けたもののみ有効)
●11日前から6ヶ月以内に新型コロナ感染症に感染し、回復した証明書


●薬局で売っている「自己検査キット」の陰性証明書も認められるようになりました(医療専門家の監督下で検査を行う場合のみ)。

◆病気やアレルギーの理由でワクチンを受けられない人は、かかりつけ医の証明書が、衛生パスの代わりになります。

□ 衛生パスを持たない従業員への制裁

8月31日以降、文化、娯楽、スポーツ、見学施設、役所、商店、飲食店など、外部からの人の出入りがある場所で働く人たちは、ワクチンを打たない場合、2日ごとに陰性証明を提出しなければ仕事ができなくなりました

衛生パス義務に従わない場合、雇用主は雇用契約の中断を言い渡す事ができることが決まりました。

最初に政府が提案した法案は、”期限付き、期限なし、臨時の雇用契約に関わらず、雇用主は、義務に背いた従業員を解雇できる”というものでしたが、憲法審議会により手直しされました。

◼︎未接種者への検査の有料化

マクロン大統領は7月12日のテレビ演説で、「国民にワクチン接種を勧める目的で、10月15日以降、薬局でのPCR検査を有料にする」と宣言しました。

検査有料の対象は、ワクチン未接種者のみ。12歳未満と、接種済みの12歳以上は、今後も検査は無料。

検査無料の最終日の14日、パリのある薬局には、通常の2倍の検査予約が殺到したそうです。

□未接種者の検査費用

●薬局でのPCRテストは平日が25ユーロ、日曜日は30ユーロ。

●検査機関でのPCR検査は44ユーロ、抗原検査は22ユーロ。

□社会保障費の減少と未接種者の説得を期待する政府

これまでフランスの社会保障が支払ったPCR検査費用は、60億ユーロ。

無料検査の終了は検査費用の軽減と同時に、未接種者に対し、ワクチン接種を強く促すことに繋がると政府は期待しているようです。

ワクチン未接種者に対してのみの検査有料化。不公平な措置のように見受けられますが、フランスの人たちはどう受け止めているのでしょうか。

◼︎3度目の接種とマクロン大統領のテレビ演説

2021年7月12日、8時のテレビニュースでのマクロン大統領の演説

フランスでは65歳以上の基礎疾患を持つ人たち、老人ホームで暮らす人たち、看護師に対して、3回目の接種が勧められています。対象となる770万人のうち、接種を受けているのはわずか330万人。

「私は、ワクチン接種がスムーズに運ぶよう、総動員令を出しています。必要な量のワクチンは充分にがあるのです。早く予約を取って接種することを勧めます」カステックス首相は高齢者に強く呼びかけています。

政府は65歳以下の国民に対しても、3回目の接種キャンペーンを加速させたい様子。

3回目の接種は、近いうちに65歳以下の人たちにも一般化するのでしょうか。3回接種が「衛生パス」の必須条件になるか気になるところです。2回接種済みである国民の88%はどう考えているのでしょうか。

「3回目の接種」の話題で持ちきりのフランスですが、7月12日以来4ヶ月ぶりの11月9日、大統領のテレビ演説が行われると発表がありました。

これまでの大統領演説では、衝撃的な重大発表がされてきました。

政府は2022年7月31日までの緊急衛生事態の延長を望んでいましたが、手直しが加えられ、2022年2月末までに決定。11月に入り、「感染再拡大」、「4波の初期段階に突入」とメディアは騒いでいます。今度はどんな措置が大統領の口から発表されるのでしょうか。3回目接種の一般化、それともイタリアのような全ての勤労者に対する衛生パス義務化、それとも全国民ワクチン義務化なのでしょうか。

助け合い精神が素晴らしい、愛すべきフランス人たち

2020年春の一回目の都市封鎖の時には、自力で買い物に行けない人たちを助ける運動がフランス各地で起こりました。

私自身も近所の人たち、友人たち、知らない人たちからまでもが親切にしてしてくれました。人里離れた田舎には歩いて行ける店がなく、たくさんの人たちからの温かいお心遣いに支えられました。感動のあまり心が熱くなることばかりの日々でした。困難な2ヶ月間を生き延びられたのは、周りの人たちのお陰でしかありません。そんな愛すべきフランス人たちの間でワクチンをめぐって分断が深まっている。考え方が違うだけで、良心に従って生きていること、幸せに生きていたいと願っていることには変わりがない。そんな大らかで慈しみの心が深い人々の間で、生活や行動に格差ができてしまうのはあまりにも悲しい・・・、私の今の正直な気持ちです。